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大阪地方裁判所 平成9年(行ウ)21号 判決 1999年7月16日

原告

松永勝則

右訴訟代理人弁護士

村松昭夫

杉本吉史

河野豊

被告

東大阪税務署長 元野俊明

右指定代理人

石垣光雄

長田義博

木村訓受

伊藤実

大久保昭男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成七年三月二日付けでした、原告の平成三年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分を取り消す。

2  被告がいずれも平成七年三月二日付けでした、原告の平成三年分の所得税の更正のうち、総所得金額三六七万一六七二円、納付すべき税額二四万五一〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定、原告の平成四年分の所得税の更正のうち、総所得金額五一九万九五〇九円、納付すべき税額四七万一八〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定、原告の平成五年分の所得税の更正のうち、総所得金額二八八万〇九四〇円、納付すべき税額一五万七〇〇〇円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成七年七月七日付け異議決定により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、タイヤ・ホイールの卸売業を営み、その所得税について被告から青色申告の承認を受けていた者であるが、平成三年から平成五年の各年分(以下「本件係争各年分」という。)の各所得税について、いずれも青色申告書による確定申告をしたところ、被告が平成七年三月二日付けで、原告の平成三年以降の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をするとともに、原告の本件係争各年分の所得税について、各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定をした。原告は、平成七年四月一〇日、被告に対し、本件青色申告承認取消処分、右各更正処分及び右各過少申告加算税賦課決定について異議申立てをしたところ、被告は、同年七月七日付けで、本件青色申告承認取消処分について異議申立てを棄却する旨の決定をするとともに、右各更正処分及び右各過少申告加算税賦課決定についていずれも一部を取り消す旨の決定をした(以下、一部取消後の右各更正処分を総称して「本件更正」と、一部取消後の右各過少申告加算税賦課決定を総称して「本件決定」という。)。原告は、同年八月三日、国税不服審判所長に対し、本件青色申告承認取消処分並びに本件更正及び本件決定について審査請求をしたところ、同所長は、平成八年一二月一二日付けで審査請求を棄却する旨の裁決をし、裁決書謄本は、同月一九日、原告に送達された。これらの経緯の詳細は、別表課税の経緯のとおりである。

2  しかし、本件青色申告承認取消処分並びに本件更正及び本件決定は、いずれも違法であるから、原告は、請求の趣旨に記載したとおり、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち、裁決書謄本が平成八年一二月一九日原告に送達されたことは不知。その余は認める。

三  本件各処分の根拠に関する被告の主張

1  本件各処分に至る経緯

(一) 被告は、原告が提出した本件係争各年分の所得税の確定申告書に記載された所得金額及び消費税の申告内容が適正なものであるかどうかを確認させるため被告部下職員をして、原告の所得税及び消費税調査(以下「本件調査」という。)に当たらせた。

(二) 本件調査の経緯は次のとおりである。

(1) 平成六年八月一一日

被告部下職員である下熊一嗣大蔵事務官(以下「下熊事務官」という。)は、午後二時ころ、原告の事業所に臨場したが、原告は不在であり、応対した原告の妻松永キク子(事業専従者。以下「キク子」という。)に所得税及び消費税の申告内容の確認に来た旨を告げ、調査への協力を依頼したところ、キク子は、簡単な事業概況の聴取に応じたものの、多忙を理由に調査に応じなかったので、下熊事務官は、原告の都合のよい日を盆明けに連絡するように告げ、原告の事業所を辞去した。

(2) 平成六年九月六日

キク子から電話があり、九月一二日午後一時三〇分に原告の自宅に臨場してもらいたい旨の申立てがあったので、下熊事務官はこれを了承するとともに、臨場日に帳簿書類を用意しておくように依頼すると、キク子は、平成五年分と平成四年分の途中まではそろっているが、それ以外については、引越の時に紛失したかもしれない旨申し立てた。

(3) 平成六年九月一二日

午後一時三〇分ころ、下熊事務官が原告の自宅に臨場したところ、原告は不在であり、キク子が「調査のことについて、主人には言っていない。」と答えたので、その理由を尋ねると「帳簿関係は、私が全部しており、主人は全然分からないから。」と説明した。そして、キク子は民主商工会事務局員ら第三者二名を同席させていたので、下熊事務官は、調査に関係のない者の立会いは税務職員の守秘義務及び税理士法に違反するおそれがあるため、右第三者を退席させた上で帳簿書類を提示し調査に応じるよう求めたが、キク子は「第三者は出ていってもらうという法律があるのか。」「私には隠すようなものはない。私がいいと言っているのだからいいではないか。」と申し立て、これに応じなかった。また、キク子は「私のところばかり、三年おきに来るのはなぜか。」など調査理由の開示にも固執し、下熊事務官が「所得金額及び消費税の申告内容の確認である。」と説明しても納得せず、東大阪税務署に電話し、下熊事務官の上司大羽建二郎統括官(以下「大羽統括官」という。)に選定理由等の説明を求めた。下熊事務官は、キク子の電話が終わるのを待ってキク子に調査に協力するよう説得したが、キク子は、選定理由を明らかにすること、第三者の立会いを認めることに固執し、帳簿書類を提示しなかったので、下熊事務官は、これ以上の調査の進展は望めないと判断し、原告の自宅を辞去した。

(4) 平成六年九月一九日

下熊事務官は、午前一〇時ころ、原告の事業所に電話したが、原告が不在であったので、応対者に対し、原告に電話連絡してもらいたい旨の伝言を依頼したところ、午前一一時ころ、キク子より電話があり、次回臨場日については「日を勝手に決められても、そちらに合わすことはできない。月末は忙しいので今月中は無理である。」「二二日までには連絡する。」と答えたので、下熊事務官は、その日までに都合のよい日を連絡するよう依頼した。

(5) 平成六年一〇月四日

同日までに原告より電話がなかったので、下熊事務官は、午後二時ころ、原告の事業所に臨場したところ、従業員が、原告及びキク子は不在であると申し立てたので、原告らに電話連絡してもらいたい旨の伝言を依頼したところ、午後三時ころ、キク子より電話があり、「一〇月一一日午後二時に原告の自宅に臨場してもらいたい。」と申立てがあったので、下熊事務官は了承した。

(6) 平成六年一〇月一一日

下熊事務官は、午後二時、原告の自宅に臨場したが、原告は不在であり、キク子は、下熊事務官に対し、帳簿関係はすべて私が担当しているので私が応対するよう原告から指示された旨答えるとともに、調査の選定理由を尋ねたので、下熊事務官は、大羽統括官の指示による旨説明したが、キク子は、前々回、前回の調査の不満を繰り返し、当日下熊事務官が調査のために持参していた原告に関する資料を見せなければ帳面は見せない旨申し立て、調査に協力しなかった。

下熊事務官は、キク子に対し、同席していた民主商工会事務局員ら第三者二名を退席させた上で、調査に協力するよう説得したが、キク子は、右第三者の立会い及び調査理由の開示に固執するばかりで右説得に応じなかったので、下熊事務官は、「結局、立会いのないところでは帳簿を見せてもらえないのですか。」と確認したところ、キク子が右第三者の立会いの下での調査に固執したので、これ以上の調査の進展は望めないと判断し、「このような状況では調査は一向に進みません。税務署独自の方法で調査します。調査に協力する気になられたらご連絡下さい。」と告げ、原告の自宅を辞去した。

キク子は、午後三時三〇分ころ、大羽統括官に電話し、「なぜ、立会いが悪いのか。私が頼んで来てもらっている。」「私には秘密がないし、私がいいと言っているから良いではないか。」等、下熊事務官の第三者の立会いの排除要請に対して抗議し、「立会いの下でないと、調査を受けない。」と告げ、一方的に電話を切った。

(7) 平成六年一〇月二一日

キク子は、午前一一時二〇分ころ、下熊事務官に電話し、原告の取引先の反面調査を行ったことについて抗議するとともに、電話を代わった大羽統括官に対しても「担当者を変えよ。記帳補助者としての第三者の立会いを認めよ。」と申し立て、一方的に電話を切った。

(8) 平成六年一〇月二六日

下熊事務官は、午後五時ころ、キク子に電話して、次回臨場日を一〇月二八日午後二時、原告の自宅に臨場する旨約束し、その際、第三者の立会いなしで帳簿を提示するよう依頼したが、キク子は応じず、一方的に電話を切った。

(9) 平成六年一〇月二八日

下熊事務官は、午後二時、原告の自宅に臨場したところ、キク子は、民主商工会事務局員ら第三者四名が待機する応接間に案内したので、下熊事務官が、キク子に対し、前回同様、税務職員の守秘義務に違反するおそれがあるため第三者を退席させた上で調査に協力するように要請したところ、キク子は「あなたがよそでしゃべらなければいいんや。」等申し立て、これまで同様第三者の立会いに固執して、右要請に応じようとせず、下熊事務官が、「立会いの下でした帳簿書類は見せてもらえないのですか。」と尋ねると、キク子が「そうや。見せへんよ。」と答えたので、下熊事務官は、調査の進展は望めないと判断し、原告の自宅を辞去することにした。ところが、第三者が応接間の出口をふさぎ、下熊事務官が部屋から出られない状態にした上、キク子が、大羽統括官に電話して、下熊事務官の第三者の立会い排除について抗議するとともに、下熊事務官に対し、第三者を記帳補助者として立会いさせるよう強く迫った。下熊事務官は、「帰りますので出口を開けて下さい。」と言ったが、キク子らが無視したので、「奥さん、私を監禁するのですか。」と抗議したところ、やっと第三者が出口を開けたので、原告の自宅を辞去した。

その後、キク子から、再度、大羽統括官に電話があり、記帳補助者としての第三者の立会いを認めるように抗議したので、大羽統括官は、先の電話での説得と同様「守秘義務が公務員には課されており、立会いは認められない。立会いのもとでないとだめだと言うのであれば、調査は進みませんので署の方で調査を進めます。」と答えた。

(10) 平成六年一一月一〇日

午後四時四五分ころ、キク子より電話があり、「帳面を見せるので一四日に来てほしい。」と申立てがあったので、下熊事務官は、第三者の立会いがない状態で帳簿書類を見せるのか確認したところ、キク子が立会いのないところで見てもらうように考える旨申し立てたので、一一月一四日午後二時に原告の自宅に臨場する旨約束した。

(11) 平成六年一一月一一日

下熊事務官は、午後一一時ころ、原告に電話をし、次回の臨場日時を一一月一五日午後二時に変更するよう依頼し、了承を得た。

(12) 平成六年一一月一五日

下熊事務官は、午後二時ころ、原告の自宅に臨場したところ、原告は不在でキク子が応対したが、これまでと同様民主商工会事務局員ら第三者が三名同席しており、下熊事務官が、「立会いのないところで見せる約束ではなかったのですか。」と尋ねると、キク子は、「見せると言っていない。」と申し立て、納税者の権利に関することを述べるばかりで帳簿書類の提示をしなかったので、下熊事務官は、このような状態では調査は進展しないと判断し、原告の自宅を辞去した。

(13) 平成七年一月一九日

下熊事務官は、午前九時三〇分ころ、原告の事業所に臨場したが、従業員しかおらず、原告には会えなかった。

(14) 平成七年一月二四日

下熊事務官は、午前一〇時三〇分ころ、原告の事業所に臨場したところ、原告は不在であったので、向かいの店舗でキク子に面接し、キク子に対して原告の所在を尋ねたところ、キク子は「ここにはいない。帳簿は私がやっているので、主人に何を聞いても分からないし、無駄である。」と答えた。下熊事務官は、申告名義人である原告とも面談したい旨告げたところ、キク子が「事業所ではなく自宅に来るように。」とだけ言って店舗のドアを閉めたので、やむなく事業所を辞去した。

(15) 平成七年一月二七日

下熊事務官は、午前九時二〇分ころ、原告の事業所に臨場し、原告の帰りを事業所付近で待っていると、午前九時五〇分ころ、原告が事業所に戻って来たので、下熊事務官は、原告に対し、身分を名乗った上、「所得税と消費税の調査を受けていることを知っていますか。」と聞いたところ、原告は、「知っている。」と答え、帳簿書類はキク子と同様第三者の立会いがないと見せない旨答えた。さらに、原告は、下熊事務官の帳簿書類を預からしてほしい旨の要請も拒否したので、下熊事務官は、本件調査において、これまで同様調査に関係のない第三者の立会いに固執して帳簿の提示を拒むならば、青色申告の承認の取消をせざるを得ないことを話し、原告の事業所を辞去した。

(16) 平成七年二月二日

下熊事務官及び倉本卓郎調査官(以下「倉本調査官」という。)は、午前九時三〇分ころ、原告の事業所に臨場し、原告に対し、同年二月八日までに青色申告に必要な帳簿書類を提示すること及び同日までに提示がない場合は青色申告の承認を取り消さざるを得ない旨を内容とする、同月二日付け「注意書」を手交して原告の事業所を辞去した。

(17) 平成七年二月六日

原告及びキク子より「二月二日付東大阪税務署長名による注意書に対する質問書」が提出された。

(18) 平成七年二月八日

原告から帳簿書類の提示はなかった。

(19) 平成七年二月一四日

下熊事務官は、午後二時四〇分ころ、原告の事業所に臨場したところ、原告は不在であり、キク子が応対したので、原告の取引先の反面調査等に基づく調査額を説明したところ、キク子は、調査額をメモに控えた上で法律で闘う旨申し立てた。下熊事務官は、キク子に修正申告するのであれば明日中に連絡するように伝えたが、キク子が「直しません。闘います。」と言って一方的にドアを閉め応答しないので、やむなく原告の事業所を辞去した。

(20) 平成七年二月一六日

キク子及び民主商工会事務局員二名が東大阪税務署に来たので、大羽統括官が応対した。キク子は、右事務局員同席の下での調査額の説明を求めたので、大羽統括官は、第三者同席の下では調査額の説明はできない旨説明した。

なお、原告及びキク子を請願人とする東大阪税務署長宛「請願書」が提出された。

(21) 平成七年三月二日

被告は、原告に対し、同日付け平成三年分以降の所得税の青色申告承認取消の通知書と平成三年分ないし平成五年分の所得税の更正通知書を送付した。

2  本件青色申告承認取消処分の適法生

(一) 所得税法一五〇条一項一号にいう帳簿書類の備付け等とは、青色申告制度の趣旨に照らし、単に帳簿書類を納税者において物理的に備え付けておけば足りるものではなく、これに対する税務調査において税務職員がこれを閲覧、検討し、帳簿書類が青色申告の基礎としての適格性を有するものか否か、帳簿書類に基づき所得額を正しく算定して納税申告をしているかどうかを判断し得る状態におくことを当然の前提として包含しているものと解される。したがって、所得税法一五〇条一項一号にいう帳簿書類の備付け等が大蔵省令に定めるところに従って行われていない場合とは、青色申告者が、税務調査に際し、課税庁の当該職員の帳簿書類の提示閲覧要求に応じないため、課税庁において、右帳簿書類の備付け等が大蔵省令に定めるところに従って行われているかどうか確認し得ない場合をも含むものである。

(二) そして、右1に記載のとおり、原告は、被告の部下職員が九回にわたり原告の事業所及び自宅に臨場し、調査に協力して帳簿書類を提示するよう求めたにもかかわらず、第三者の立会い等を執拗に求め、これらの条件が充たされない限り、帳簿等を提示し調査に協力することはできないとの態度に終始したものである。

ところで、所得税法二三四条一項の規定に基づく質問検査権を行使する際の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当限度にとどまる限り、これを権限ある調査担当者の合理的な選択にゆだねられているものであり、質問検査に際し第三者の立会いを認めることは要件とされていないから、第三者の立会いを認めるか否かも右調査担当者の合理的な選択にゆだねられているというべきである。そして、通常、税務調査においては、納税者の財産及び一身上の事実並びに取引先等との関係について詳細に質問し、確認調査を行わなければならない場合が頻繁に発生し、それらの事実の中には、当然、納税者自身及び取引先等に関する秘密に属する事実も含まれることから、調査に関係のない第三者が立ち会うということは、調査を担当する税務職員にとって、常に守秘義務違反のおそれが存在するものというべきである。そうすると、下熊事務官が民主商工会事務局員の立会いを拒否したことは、税務職員の裁量にゆだねられた権限の範囲内の行為であるといえる。

したがって、原告の右行為は、何ら正当な理由なく帳簿書類を提示せず、右職員の帳簿書類の閲覧、検討を不可能ならしめたのであるから、所得税法一五〇条一項一号に規定する青色申告に係る帳簿書類の備付け、記録及び保存が大蔵省令で定めるところに従って行われていない場合に該当するから、本件青色申告承認取消処分は適法である。

3  本件更正及び本件決定の適法性

(一) 推計の必要性

下熊事務官は、前記1に記載のとおり、本件調査に当たり、本件係争各年分の事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類の提示を求めるため、合計九回原告の事業所及び自宅に臨場し、その都度原告又は事業専従者であるキク子に対し、第三者の立会いを排除して調査に協力するよう求めたにもかかわらず、原告らは調査に協力しなかった。このため、被告は、原告の所得金額を実額により算定することができず、やむを得ず推計の方法により計算せざるを得なかった。

(二) 本件更正の根拠

(1) 総所得金額について

原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)は、別表原告の総所得金額の各<10>総所得金額(事業所得の金額)欄記載のとおりである。

ア 売上金額

原告の本件係争各年分の売上金額は、別表原告の総所得金額の各<1>売上金額記載のとおりであり、いずれも同別表の本件係争各年分の各<2>売上原価の額(内訳は、別表原告の売上原価の明細記載のとおり)を、別表同業者一覧表(平成3年分から平成5年分まで)の同業者の各<3>売上原価率(売上原価金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「平均売上原価率」という。)で除して算定した金額である。

イ 売上原価

現時点において被告が把握している原告の本件係争各年分の売上原価の額は、別表原告の総所得金額の各<2>売上原価の額欄記載のとおりである。

ウ 算出所得金額

原告の本件係争各年分の算出所得金額は、別表原告の総所得金額欄記載のとおりであり、いずれも右アの本件係争各年分の売上金額に別表同業者一覧表(平成3年分から平成5年分まで)の同業者の各<8>算出所得率(算出所得金額の売上金額に対する割合)の平均値(以下「平均算出所得率」という。)を乗じて算定した金額である。

なお、右算出所得金額の算定に際し、専従者給与のうち、記帳事務以外の業務(販売、修理等)に従事している者の金額は一般経費に含めて計算している別表同業者一覧表(平成3年分から平成5年分まで)においては、<6>専従者給与欄の金額には記帳事務以外の業務(販売、修理等)に従事している専従者の給与の金額が記載されており、<4>一般経費欄の金額に含まれていないので、<5>算出所得金額欄の金額から<6>専従者給与欄の金額を差し引いて、<7>本件における算出所得金額欄の金額を算定している。)。

エ 特別経費の額

a 建物減価償却費

原告の本件係争各年分の建物減価償却費の金額は別表原告の総所得金額の各<6>建物減価償却費記載のとおりであり、いずれも原告が平成元年一一月に一〇〇万円で行った店舗改装の減価償却費の金額であり、その算式は、別表減価償却費の計算記載のとおりである。

b 地代家賃

原告の本件係争各年分の地代家賃の金額は、別表原告の総所得金額の各<7>地代家賃欄記載のとおりであり、原告が被告宛に提出した本件係争各年分の青色申告決算書の金額と同額である。

オ 事業専従者控除額

事業専従者控除額は、原告が本件係争各年分の所得税の確定申告書に記載したキク子に係る控除額であり、いずれも八〇万円である。

(2) 推計の合理性について

ア 大阪国税局長は、原告の事業所所在地を管轄する被告及びこれに隣接する生野、東成、城東、東住吉、八尾、門真の各税務署長に対し所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件係争各年分を通じて、次のaないしgのいずれの条件をも満たすすべての者を抽出するよう通達指示したところ、抽出された同業者の総数は、別表同業者一覧表(平成3年分から平成5年分まで)のとおり七名であった。

a 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること

b タイヤ・ホイールの販売業(付随業務としてタイヤ・ホイールの整備修理を行う者を含む。)を営む者であること

c 右b以外の業種目を兼業していないこと

d 事業所が生野、東成、城東、東住吉、東大阪、八尾及び門真のいずれかの税務署の管内にあること

e 年間を通じて事業を継続して営んでいること

f 仕入金額が三五〇〇万円以上、二億六〇〇〇万円未満であること

g 作成対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと

イ 右アの選定基準は、原告の事業内容に基づき設定したものであり、右基準により抽出された同業者は、原告と業種、業態、事業規模及び事業所の所在地等の点において類似性を有し、本件係争各年分を通じ係属して事業を経営している同業者であるから、原告の所得を推計する基礎としては適当であり、また、右同業者はすべて青色申告者であるから、その金額等の算定根拠となる資料はすべて正確なものである。しかも、右同業者の選定は、大阪国税局長の発した一般通達に基づき前記各税務署長が無作為かつ機械的に右基準に該当するすべての者を抽出したものであるから、その選定に当たって恣意の介在する余地はない。このようにして選定された同業者の売上原価率及び算出所得率については、正確性と普遍性が担保されており、被告がこれらの平均値を用いて原告の本件係争各年分の事業所得金額を推計したことは合理性を有する。

(三) 本件更正及び本件決定の適法性

原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)は、右(二)(1)のとおりであり、この範囲でした本件更正及び本件決定はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1(本件各処分に至る経緯)について

(一) (二)(1)(平成六年八月一一日)について

下熊事務官が原告の事業所に臨場したことは認め、その余は否認する。当時、原告は、事業所におり、帳簿等の関係書類を自宅に保管していたが、下熊事務官が事前連絡もなく突然事業所に訪問してきたため、その際に関係書類を見せることは不可能であった。キク子が都合の良い日を後日連絡すると述べると、下熊事務官は帰った。

(二) (二)(2)(平成六年九月六日)について

キク子が下熊事務官に電話したことは認めるが、その余は否認する。

キク子が電話したのは八月末日のことであり、約束した臨場の日時は九月一二日午後二時であった。また、キク子が帳簿書類を一部紛失しているかもしれないと言ったのは八月一一日のことである。

(三) (二)(3)(平成六年九月一二日)について

下熊事務官が原告の自宅に臨場したこと、キク子が民主商工会事務局員二名(栗山、伊藤)を同席させていたこと、キク子が下熊事務官に自分のところを三年おきに調査している理由を尋ねたこと、東大阪税務署に電話し、大羽統括官に選定理由の説明を求めたこと、下熊事務官が調査をせずに帰ったことは認め、その余は否認する。

当時、キク子は、調査の準備を終えていたので、下熊事務官はすぐに調査をすることが可能であったが、守秘義務を理由に、右事務局員らの同席の下では調査ができないと言って調査しようとしなかった。キク子は、「記帳は複雑だから自分では分かりにくい。これまで何度も民主商工会の事務局員に同席してもらっている。自分が頼んで右事務局員に来てもらっているのだから、同席の下で調査をしても守秘義務には違反しない。」等と述べ、調査するように下熊事務官に何度も頼んだが、下熊事務官は、右事務局員の同席拒否に固執し、全く調査しようとしなかった。また、下熊事務官は、キク子からの三年おきの調査の理由についての質問に対し、「理由はない。選定理由は聞いていない。教える義務はない。知る権利はない。」と述べるのみで、キク子の疑問に答えようとしなかった。キク子は、大羽統括官に対し、電話で、記帳補助者の同席拒否をやめる等納税者が納得できるような調査をするように下熊事務官に指導することを求めたが、大羽統括官は、「納税者に義務はあっても権利はない。」等と言うのみで、下熊事務官に何ら指導することはなかった。

(四) (二)(4)(平成六年九月一九日)について

認める。

(五) (二)(5)(平成六年一〇月四日)について

下熊事務官が午後二時ころ原告の事業所に臨場したこと、キク子が、午後三時ころ、下熊事務官に電話して「一〇月一一日午後二時に原告の自宅に臨場してもらいたい。」と伝え、下熊事務官が了承したことは認め、その余は否認する。

キク子は、九月二二日に下熊事務官に電話し、臨場の予定が立たないため都合の良い日を追って連絡する旨伝えており、それ以降、商売や交通事故の処理等で忙しかったため、連絡できないでいたところ、下熊事務官が突然臨場したものである。

(六) (二)(6)(平成六年一〇月一一日)について

下熊事務官が午後二時原告の自宅に臨場したこと、キク子が大羽統括官に電話したことは認め、その余は否認する。

キク子が確認しやすいように帳簿類を開いてテーブル上に並べて置いたにもかかわらず、下熊事務官は、それを見ず、「前回の調査結果を分析した結果、違法性が疑わしい二〇件のうちの一件に入っているから再び調査に来た。」と言ったため、キク子は、疑わしいと判断した根拠を教えるように下熊事務官に尋ねた。しかし、下熊事務官は、キク子の質問に答えず、再び記帳補助者の同席拒否に固執し、税務署独自の方法で調査すると言って帰りかけた。キク子は、納税者の権利ないしは都合も考えて調査するように説得したが、下熊事務官はその説得を無視して帰った。なお、前々回の調査や前回の調査は、記帳補助者同席の下、三時間ほどで終わったため、キク子に不満はない。その後、キク子は、大羽統括官に電話で抗議したが、大羽統括官は、納税者に権利はないと言い放って電話を切った。

(七) (二)(7)(平成六年一〇月二一日)について

キク子が午前一一時二〇分ころ下熊事務官及び大羽統括官に電話して抗議をしたことは認め、その余は否認する。

大羽統括官に対する抗議の内容は、従前の担当職員は記帳補助者の同席を認めていたにもかかわらず、下熊事務官のみが同席拒否に固執するために調査がなされないことから、同席拒否に固執せずに真面目に調査をする職員に担当を替えてほしいというものであった。

(八) (二)(8)(平成六年一〇月二六日)について

おおむね認める。

ただし、第三者の立会いについては、従前どおり、キク子は、記帳補助者としての同席を権利として主張し、下熊はその拒否に固執し、両者の主張は平行線のまま終わったものである。

(九) (二)(9)(平成六年一〇月二八日)について

下熊事務官が原告の自宅に臨場したこと、第三者四名が待機していたことは認め、その余は否認する。

当日、原告の自宅にいた第三者は、いずれも原告が記帳補助者として同席を依頼した人達である。下熊事務官は、依然として記帳補助者の同席拒否に固執し、調査をせずに帰ろうとしたため、キク子が下熊事務官に対し仕事をしてから帰るように言ったところ、下熊事務官は応接間に座り込んだ。そして、記帳補助者の一人である菰島は、大羽統括官に電話して下熊事務官への指導を要請したところ、大羽統括官が「同席を認めても良いのに。」と述べたため、下熊事務官に対し、その旨を伝えたが、下熊事務官は調査をせずに帰った。

(一〇) (二)(10)(平成六年一一月一〇日)について

キク子が午後四時四五分ころ下熊事務官に電話し、一四日に帳簿等を見てほしいと要請したこと、一一月一四日午後二時に原告の自宅に臨場する旨約束したことは認め、その余は否認する。

その際、記帳補助者の同席については話題に出なかった。

(一一) (二)(11)(平成六年一一月一一日)について

認める。

(一二) (二)(12)(平成六年一一月一五日)について

下熊事務官が午後二時ころ原告の自宅に臨場したことは認め、その余は否認する。

下熊事務官は記帳補助者の同席拒否にまたも固執し、「立会いのいるところでは、資料の提示がなかったとします。」と言い放って帰った。

(一三) (二)(13)(平成七年一月一九日)について

認める。

ただし、下熊事務官が臨場した際、キク子がすぐに帰るから待つように従業員が伝えたにもかかわらず、下熊事務官はキク子を待たずに帰った。

(一四) (二)(14)(平成七年一月二四日)について

下熊事務官が原告の事業所に臨場したこと、原告が不在であったことは認め、その余は否認する。

下熊事務官は、原告及びキク子の留守を知ってすぐに帰ったものである。

(一五) (二)(15)(平成七年一月二七日)について

おおむね認める。

ただし、原告は調査に協力する姿勢を持ち、帳簿等を閲覧に供する準備をしていたにもかかわらず、下熊事務官が記帳補助者の同席拒否に固執して調査をしようとしないために、調査がされなかったものである。

(一六) (二)の(16)(平成七年二月二日)、(17)(平成七年二月六日)及び(18)(平成七年二月八日)についていずれも認める。

(一七) (二)(19)(平成七年二月一四日)について

下熊事務官が午後二時四〇分ころ原告の事業所に臨場したこと、原告は不在でありキク子が応対したこと、下熊事務官がキク子に対し原告の取引先の反面調査等に基づく調査額を口頭で伝えたことは認め、その余は否認する。

下熊事務官は一方的に早口でしゃべり、しゃべり終わるとすぐに帰ったので、キク子はメモを取ることもできず、調査額は分からなかった。

(一八) (二)(20)(平成七年二月一六日)について

認める。

(一九) (二)(21)(平成七年三月二日)について

原告は、平成七年三月四日、平成三年分以降の所得税の青色申告承認取消の通知書と平成三年分ないし平成五年分の所得税の更正通知書を受け取った。

2  被告の主張2(本件青色申告承認取消処分の適法性)について

(一) 記帳補助者同席の正当性について

税務行政の恣意を排除して納税者の手続的権利を確保するためには、税務調査に際し、税務職員による社会的に不相当な質問検査等が行われないようにしなければならず、このためには、税務職員に対して専門知識、能力ともに通常は格段に劣る事業者が税務職員の行為を監視することは極めて困難であるから、右行為を監視し、不適切な行為があった場合には適切な助言なり援助を与える立場の者が、税務調査に同席することが有効である。この同席は、本人になり代わって税務職員に対応するものではないから、税理士法にいう「税務代理行為」としての「立会い」とは異なるもので、この立会いを認めても違法にはならない。むしろ、この同席は、一般の納税者にとって、調査の公正を確保するために不可欠とも言い得るものであるし、そもそもこの調査は任意調査であるため納税者の理解を得た上でなされるのが原則であるから、納税者から右同席の要望があった場合に、これを排除して調査を強行したり調査を拒否したりすることは違法になる。

(二) 守秘義務について

納税者の秘密については、納税者自身が依頼した記帳補助者が同席するのであるから、その漏洩は問題にならない。また、取引先の秘密についても、納税者はその内容を既に知っており、納税者が依頼した記帳補助者も、調査の公正を確保するために監視しているのであるから、右内容を当然に知り得る立場にある。したがって、守秘義務の存在は、記帳補助者の同席拒否の理由にはならない。

(三) 下熊事務官による調査の不当性

キク子は、下熊事務官が原告の自宅に臨場した際、三年分の帳簿、伝票の月別綴りを紙袋から出して、確認しやすいように開いて、テーブルの上に並べて置いたことが何度もあったにもかかわらず、下熊事務官は、記帳補助者の同席拒否を調査の条件とし、それらの帳簿の確認を行わなかった。

下熊事務官による調査の全過程において、帳簿の確認作業を行うことが不可能であったとはいえず、かえって、その機会は右のようにいくらでも存在したのであり、本件青色申告承認取消処分は違法である。

3  被告の主張3(本件更正及び本件決定の適法性)について

(一) (一)(推計の必要性)は争う。

(二) (二)(本件更正の根拠)について

(1) (二)(1)(総所得金額について)冒頭の主張は否認する。

ア (二)(1)アは否認する。

イ (二)(1)イについて

被告が原告の本件係争各年分の売上原価であると主張する額(別表原告の売上原価の明細)のうち、番号2ウエダ商事(株)、番号4(株)キョクトー、番号8(株)ディアール技研、番号三友商会(石原雅四)の本件係争各年分の金額が売上原価であることは否認し、その余は売上原価であることを認める。

ウ (二)(1)ウは否認する。

エ (二) (1)エのa、bは認める。

オ (二) (1)オは認める。

(2) (推計の合理性について)は争う。

同業者の選定に当たり、被告又は隣接税務署の管内に事業所を有する者に限定していること、仕入金額が三五〇〇万円以上、二億六〇〇〇万円未満であるといった極めて広い選定を行っていることなど、被告による同業者の選定には問題が多く、恣意的である。特に、同じタイヤ・ホイールの販売業を営む者であっても、原告のように主に中古車販売業者に対しての販売を行う業者と、エンドユーザーヘの小売を主に行う業者では、類型的に見ても売上原価率や所得率は異なるのが通常であるから、原告と同様の業者に限定すべきである。また、タイヤ・ホイールの整備修理業務は、仕入れがほとんど要らない業務であり、販売業務に比して売上原価率は低くなることが明らかであるから、整備修理業務の売上については除外して比較すべきである。

(三) (三)(本件更正及び本件決定の適法性)は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1の事実のうち、国税不服審判所長による審査請求を棄却する旨の裁決の裁決書謄本が平成八年一二月一九日原告に送達されたことは、証拠(甲一)及び弁論の全趣旨により認めることができ、その余の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件各処分に至る経緯について

1  平成六年八月一一日、下熊事務官が原告の事業所に臨場したこと、後日、キク子が下熊事務官に電話したこと、同年九月一二日、下熊事務官が原告の自宅に臨場したこと、キク子が民主商工会事務局員二名(栗山、伊藤)を同席させていたこと、キク子が下熊事務官に自分のところを三年おきに調査している理由を尋ねたこと、東大阪税務署に電話し、大羽統括官に選定理由の説明を求めたこと、下熊事務官が調査をせずに帰ったこと、本件各処分に関する被告の主張1(二)(4)(平成六年九月一九日)の事実、同年一〇月四日、下熊事務官が午後二時ころ原告の事業所に臨場したこと、キク子が、午後三時ころ、下熊事務官に電話して「一〇月一一日午後二時に原告の自宅に臨場してもらいたい。」と伝え、下熊事務官が了承したこと、同月一一日、下熊事務官が午後二時原告の自宅に臨場したこと、キク子が大羽統括官に電話したこと、同月二一日、キク子が午前一一時二〇分ころ下熊事務官及び大羽統括官に電話して抗議をしたこと、右被告の主張1(二)(8)(平成六年一〇月二六日)の事実、同月二八日、下熊事務官が原告の自宅に臨場したこと、第三者四名が待機していたこと、同年一一月一〇日、キク子が午後四時四五分ころ下熊事務官に電話し、一四日に帳簿等を見てほしいと要請したこと、一一月一四日午後二時に原告の自宅に臨場する旨約束したこと、右被告の主張1(二)(11)(平成六年一一月一一日)の事実、同月一五日、下熊事務官が午後二時ころ原告の自宅に臨場したこと、右被告の主張1(二)(13)(平成七年一月一九日)の事実、同月二四日、下熊事務官が原告の事業所に臨場したこと、原告が不在であったこと、右被告の主張1(二)の(15)(平成七年一月二七日)、(16)(平成七年二月二日)、(17)(平成七年二月六日)及び(18)(平成七年二月八日)の事実、同年二月一四日、下熊事務官が午後二時四〇分ころ原告の事業所に臨場したこと、原告は不在でありキク子が応対したこと、下熊事務官がキク子に対し原告の取引先の反面調査等に基づく調査額を口頭で伝えたこと、右被告の主張1(二)(20)(平成七年二月一六日)の事実、原告は、平成三年分以降の所得税の青色申告承認取消の通知書と平成三年分ないし平成五年分の所得税の更正通知を受け取ったことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、証拠(甲二、三、一八(一部)、二七(一部)、二八の1ないし7、乙一、四、証人下熊一嗣、同松永キク子(一部))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、この認定に反する甲一八、二七の各記載部分及び証人松永キク子の供述部分は、いずれも前掲各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  下熊事務官は、平成六年八月一一日午後二時ころ、東大阪市吉田下島所在の原告の事業所に臨場し、応対に出たキク子に対し、所得税及び消費税の申告内容の確認に来た旨を告げ、調査への協力を依頼した。しかし、キク子は、簡単な事業概況の聴取に応じたものの、多忙を理由に調査に応じなかったので、下熊事務官は、原告の都合のよい日を後日連絡する旨の約束をキク子から取り付け、原告の事業所を辞去した。

(二)  下熊事務官は、平成六年九月六日、キク子から、同月一二日午後一時三〇分に原告の自宅に臨場してもらいたい旨の申し出を電話で受けたので、これを了承し、臨場日に帳簿書類を用意しておくように依頼したところ、キク子は、平成五年分と平成四年分の途中まではそろっているが、それ以外については引越の時に紛失したかもしれないと答えた。

(三)  下熊事務官は、右約束のとおり、平成六年九月一二日午後一時三〇分ころ、肩書所在地の原告の自宅に臨場したが、原告は不在であったので、下熊事務官がキク子に対しその理由を尋ねたところ、キク子は、帳簿関係は私が全部している旨答え、下熊事務官を居間に案内した。右居間には、テーブルが置かれていて、民主商工会の事務局員である栗山俊子(以下「栗山」という。)及び伊藤幸男(以下「伊藤」という。)が既に来ており、下熊事務官は、居間の出入口から左方向に入ってすぐのところに座り、栗山及び伊藤は、下熊事務官から見てテーブルの向かい側に並んで座り(下熊事務官から見て右が栗山、左が伊藤)、キク子は下熊事務官と栗山らを左右両側に見る位置(下熊事務官から見て右斜め横、栗山らから見て左斜め横)に座った。下熊事務官は、栗山及び伊藤に対し税理士資格を有しているかどうか確認したところ、両名とも有していないとのことであったので、キク子に対し、税理士資格を有していない第三者の立会いの下では守秘義務に違反するおそれがあるので調査は進められない旨説明した上、栗山及び伊藤の退出を要請した。しかし、キク子は、右要請に応じようとせず、逆に、下熊事務官に対し、調査の理由を開示するように求めたので、下熊事務官は、所得金額の確認と消費税の申告内容の確認である旨答えたところ、キク子は、これに納得せず、大羽統括官に電話して、調査の理由の説明を求めるなどし、さらに電話が終了した後も、下熊事務官に、調査の理由を執拗に尋ねる一方、栗山らの立会いを認めることを条件に帳簿を見せると言うだけで、帳簿の提示をしようとはしなかった。そこで、下熊事務官は、これ以上調査の進展は望めないと判断し、午後四時二〇分ころ、原告の自宅を辞去した。

(四)  下熊事務官は、平成六年九月一日午前一〇時ころ、原告の事業所に電話したが、原告が不在であったので、応答者に対し、原告に電話連絡してもらいたい旨の伝言を依頼した。午前一一時ころ、キク子より電話があり、次回臨場日については「日を勝手に決められても、そちらに合わすことはできない。月末は忙しいので今月中は無理である。また連絡する。」と申し立てたので、下熊事務官は、キク子にいつまでに連絡するのか聞いたところ、「二二日までには連絡する。」と答えたので、その日までに都合のよい日を連絡するよう依頼した。

(五)  その後、平成六年九月二二日を過ぎてもいっこうに原告から連絡がなかったので、下熊事務官は、平成六年一〇月四日午後二時ころ、原告の事業所に臨場したが、原告及びキク子が不在であったので、従業員に電話連絡してもらいたい旨の伝言を依頼したところ、午後三時ころ、キク子から下熊事務官に電話で「一〇月一一日午後二時に原告の自宅に臨場してもらいたい。」旨の連絡があり、下熊事務官もこれを了承した。

(六)  下熊事務官は、右の約束のとおり、平成六年一〇月一一日午後二時、原告の自宅に臨場したが、原告は不在であり、キク子から、前回(九月一二日)と同じ居間に案内された。この時も栗山と伊藤が既に来ており、下熊事務官ら四名が、テーブルを囲んで前回と同じ位置に座り、下熊事務官から調査の理由を説明したところ、キク子は過去の調査についての不満を述べ、その後、栗山らの立会いを認めるかどうかの押し問答になった。キク子は、下熊事務官の目の前にバインダー式のノートを示し、これが帳簿である旨説明したが、下熊事務官は、手に取って確認することはせず、結局、右の押し問答は続き、下熊事務官は、キク子に対し、立会者がいなければ帳簿を提示しないのか確認したところ、そうである旨の答えであったので、このままでは反面調査せざるを得ない旨伝えて、原告の自宅を辞去した。その後、キク子は、大羽統括官に電話し、下熊事務官による立会いの排除要請に抗議するなどした。

(七)  キク子は、平成六年一〇月二一日午前一一時二〇分ころ、下熊事務官に電話し、原告の取引先の反面調査を行ったことについて抗議するとともに、電話を替わった大羽統括官に対し、第三者の立会いはどうしても認められないのか、調査担当者を変えてほしいなどと要請した。

(八)  平成六年一〇月二六日、下熊事務官は、午後五時ころ、キク子に電話し、次回臨場日を一〇月二八日午後二時、原告の自宅に臨場する旨約束するとともに、その際、第三者の立会いなしで帳簿を提示するよう依頼したところ、キク子はこれに応じず、両者の主張は依然平行線のままであった。

(九)  下熊事務官は、右の約束のとおり、平成六年一〇月二八日午後二時、原告の自宅に臨場したが、原告の自宅には、キク子、栗山及び伊藤のほか、民主商工会の事務局員である菰島、丸谷及び民主商工会の会員である藤崎が待機しており、キク子が、下熊事務官を前二回(九月一二日、一〇月一一日)と同様に居間に案内し、下熊事務官、キク子、栗山及び伊藤が前二回と同じ位置に座り、藤崎は、下熊事務官のすぐ右側に座ったが、菰島と丸谷は居間には入らなかった。そして、応接間のテーブルの上には、書類綴りが一〇ないし二〇冊ほど置かれていたが、下熊事務官は、キク子に対し、前回同様、第三者を退席させた上で調査に協力するように要請したところ、キク子は栗山らの立会いに固執して、右要請に応じようとせず、結局、栗山らの立会いを認める認めないの押し問答が続き、下熊事務官からキク子に対し、第三者の立会いがなければ帳簿を提示しないのかと尋ねたところ、キク子がそうである旨答えたので、下熊事務官は、調査の進展は望めないと判断し、原告の自宅を辞去することとした。しかし、藤崎が右側にいたため、下熊事務官は容易に出入口に進めない状態であり、その間、キク子は、大羽統括官に電話して、下熊事務官の第三者の立会い排除要請について抗議し、その後も、下熊事務官とキク子との間で、第三者の立会いを認める認めないの押し問答になったが、最後には、藤崎も下熊事務官を出入口に進めるようにし、下熊事務官は、右書類綴りの内容を確認することなく、原告の自宅を辞去した。その後、キク子は、再度、大羽統括官に電話し、第三者の立会いを認めるように抗議した。

(一〇)  キク子は、平成六年一一月一〇日午後四時四五分ころ、下熊事務官に電話し、一四日に帳簿等を見てほしいと要請してきたので、下熊事務官は、第三者の立会いがない状態で帳簿書類を見せるのかを確認したところ、キク子が立会いのないところで見てもらうように考える旨述べたので、同月一四日午後二時に原告の自宅に臨場する旨約束した。

(一一)  平成六年一一月一一日、下熊事務官の要請により、次回の臨場日時が一一月一五日午後二時に変更された。

(一二)  下熊事務官は、平成六年一一月一五日午後二時ころ、原告の自宅に臨場したところ、原告の自宅では、キク子、栗山、伊藤及び丸谷が待機しており、下熊事務官は、前三回(九月一二日、一〇月一一日、一〇月二八日)と同様に居間に案内され、下熊事務官、キク子、栗山及び伊藤が前三回と同じ位置に座り、丸谷は下熊事務官の左斜め横(キク子から見てテーブルの向かい側)に座った。そこで、下熊事務官は、キク子に対し、第三者の立会いのないところで見せてもらえることになっていたのではないかと述べたのに対し、キク子は、考えるといっただけであると答え、下熊事務官に対し、その後も栗山らの立会いを認めるよう要請した上、四人で話をしたいので席を外してほしい旨を述べたので、下熊事務官は、原告の自宅の外で二〇分ほど待った。下熊事務官が居間に戻ったところ、キク子のほか栗山が残っており、キク子は、下熊事務官に対し、補助者に一人立ち会ってもらう旨述べたので、下熊事務官は、第三者の立会いのいる状況では帳簿を見ることはできない旨話したが、キク子が納税者の権利について延々と話し出し、帳簿書類の提示もなかったので、調査は進展しないと判断し、午後四時五〇分ころ、原告の自宅を辞去した。

(一三)  下熊事務官は、平成七年一月一九日午前九時三〇分ころ、原告の事業所に臨場したが、従業員しかおらず、原告には会えなかった。

(一四)  下熊事務官は、平成七年一月二四日午前一〇時三〇分ころ、原告の事業所に臨場し、応対に出た従業員の指示により、向かいの建物に行って、キク子に面接し、原告の所在を尋ねたところ、キク子は原告に聞いても何も分からず無駄である旨答えたので、下熊事務官は、申告名義人である原告とも面談したい、また、第三者の立会いのないところで帳簿を見せてほしい旨要請したところ、キク子が自宅に来るように言ってドアを閉めたので、やむなく事業所を辞去した。

(一五)  下熊事務官は、平成七年一月二七日午前九時二〇分ころ、原告の事業所に臨場したところ、原告は不在であり、事業所付近で待っていると、午前九時五〇分ころ、原告が事業所に戻ってきたので、原告に対し、身分を名乗った上、「所得税と消費税の調査を受けていることを知っていますか。」と尋ねたところ、原告は、「知っている。」と答え、帳簿書類はキク子と同様第三者の立会いがないと見せない旨答えた。さらに、原告は、下熊事務官の帳簿書類を預からしてほしい旨の要請も拒否したので、下熊事務官は、本件調査において、これまで同様調査に関係のない第三者の立会いに固執して帳簿の提示を拒むならば、青色申告の承認の取消しをせざるを得ない旨を警告し、原告の事業所を辞去した。

(一六)  下熊事務官及び倉本調査官は、平成七年二月二日午前九時三〇分ころ、原告の事業所に臨場し、原告に対し、同月八日までに青色申告に必要な帳簿書類を提示すること及び同日までに提示がない場合は青色申告の承認を取り消さざるを得ない旨を内容とする、同月二日付け「注意書」を手交して原告の事業所を辞去した。

(一七)  平成七年二月六日、原告及びキク子より「二月二日付東大阪税務署長名による注意書に対する質問書」が提出された。

(一八)  平成七年二月八日までに、原告から帳簿書類の提示はなかった。

(一九)  下熊事務官は、平成七年二月一四日午後二時四〇分ころ、原告の事業所に臨場したところ、原告は不在でありキク子が応対したので、下熊事務官は、キク子に対し、原告の取引先の反面調査等に基づく調査額を説明した上、修正申告するのであれば明日中に連絡するように伝えた。

(二〇)  平成七年二月一六日、キク子及び民主商工会事務局員二名が東大阪税務署を訪れ、応対した大羽統括官に対し、キク子は、右事務局員同席の下での調査額の説明を求めたので、大羽統括官は、第三者同席の下では調査額の説明はできない旨説明したところ、原告及びキク子を請願人とする東大阪税務署長宛「請願書」が提出された。

(二一)  被告は、平成七年三月二日、原告に対し、同日付け平成三年分以降の所得税の青色申告承認取消の通知書と平成三年分ないし平成五年分の所得税の更正通知書を発送し、原告は、そのころ、右各通知書を受け取った。

三  本件青色申告承認取消処分の適法性

1  所得税法一五〇条一項一号は、帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由としている。そして、青色申告制度は、納税義務者に適正な記帳による正確な申告を奨励するため、一定の帳簿書類を備え付け、正確な記帳を行っている納税義務者に対し、所得計算上あるいは申告や納税の手続上の種々の特典を与えるものであり、帳簿書類の備付け等を税務当局が的確に確認できることが当然の前提となっているものと考えられることからすると、青色申告者が税務調査に正当な理由なく応じないため、帳簿書類の備付け、保存等が正しく行われているかどうかを確認できない場合も、所得税法一五〇条一項一号が定める取消事由に該当すると解するのが相当である。

2  そして、前記二1で認定した事実によれば、本件調査において、下熊事務官は、キク子に対し、栗山ら第三者の立会いのないところでの帳簿書類の提示を終始要請していたにもかかわらず、キク子は、調査に関係のない栗山ら第三者の立会いに固執し、右要請に従わなかったものであるから、下熊事務官は、原告の帳簿書類の備付け等を確認し得なかったと認めるのが相当である。もっとも、平成六年一〇月一一日と同月二八日には、右二2の(六)及び(九)で認定のとおり、原告が帳簿と主張する書類が下熊事務官の視界に置かれていたけれども、単に帳簿書類を納税者において物理的に備え付けておけば足りるというものではなく、下熊事務官の調査中、常時調査に関係のない栗山ら第三者が居間に同席し、下熊事務官にとって守秘義務違反のおそれが存在する状況を作出していたのであるから、右書類が下熊事務官の視界に置かれていた事実は、右認定を左右するものではない。

なお、所得税法二三四条の規定に基づく質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられていると解されるところ、右二で認定した事実関係の下において、キク子からの栗山ら第三者の立会いの要求を下熊事務官が守秘義務を理由に拒否した点に違法は認められないというべきである(原告は、納税者は取引先の秘密の内容を既に知っており、納税者が依頼した記帳補助者も、右内容を当然に知り得る立場にある旨主張するけれども、税務当局が把握している取引先に関する事実を被調査者がすべて知っているとは限らないし、被調査者が取引先に関して知っていることをすべて原告がいう記帳補助者に報告しているとも限らないから、税務調査において、被調査者から被調査者以外の第三者の立会いを求められた場合、守秘義務違反のおそれは一般的に存在するということができ、被調査者以外の立会いを許すかどうかは、右の点も考慮した上での調査担当者の合理的な裁量にゆだねられていると解される。)。

3  以上によれば、本件青色申告承認取消処分は、適法であるといえる。

四  本件更正及び本件決定の適法性

1  推計の必要性

前記二で認定した事実によれば、被告は、原告又はキク子に対し、本件係争各年分の原告の事業所得の計算に必要な帳簿書類の提示を繰り返し求めたにもかかわらず、原告らの協力を得られなかったものであって、被告は、本件係争各年分の原告の事業所得の金額を実額で把握することができなかった事情が存在したため、やむを得ず、右各金額を推計により算出したということができ、推計の必要性があったことは明らかである。

2  本件更正の根拠

(一)  原告の本件係争各年分の売上原価、建物減価償却費、地代家賃及び事業専従者控除額について

(1) 売上原価について

ア 原告の本件係争各年分の売上原価が別表原告の売上原価の明細(番号2ウエダ商事(株)、番号4(株)キョクトー、番号8(株)ディアール技研及び番号三友商会(石原雅四)の分を除く。)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

イ 証拠(乙六、七)及び弁論の全趣旨によれば、ウエダ商事(株)、(株)キョクトー、(株)ディアール技研及び三友商会(石原雅四)に対する原告の本件係争各年分の売上原価が別表原告の売上原価の明細記載のとおりであることを認めることができる。なお、原告は、右各業者に対する支出は売上原価として扱うべきではない旨主張するけれども、その理由となり得る具体的事情を窺わせる証拠はない。

(2) 建物減価償却費、地代家賃及び事業専従者控除額について

原告の本件係争各年分の建物減価償却費の金額が別表原告の総所得金額の各<6>建物減価償却費欄記載のとおりであり、原告の本件係争各年分の地代家賃の金額が同別表の各<7>地代家賃欄記載のとおりであり、原告の本件係争各年分の事業専従者控除額が同別表の各<9>事業専従者控除額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  推計の合理性

(1) 証拠(乙二の1ないし7、三の1ないし7)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

ア 大阪国税局長は、原告の事業所所在地を所轄する被告及びこれに隣接する生野、東成、城東、東住吉、八尾、門真の各税務署長に対し、所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件係争各年分を通じて、次の<1>ないし<7>のいずれの条件をも満たすすべての者を抽出するよう通達指示した。

<1> 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること

<2> タイヤ・ホイールの販売業(付随業務としてタイヤ・ホイールの整備修理を行う者を含む。)を営む者であること

<3> 前記<2>以外の業種目を兼業していないこと

<4> 事業所が生野、東成、城東、東住吉、東大阪、八尾及び門真のいずれかの税務署の管内にあること(大阪国税局長は、原告の事業内容と同様の同業者を抽出するに当たり、被告が行った更正処分及び同異議決定の調査時点における同業者が少なかったことから、原告の事業所所在地である東大阪税務署とそれに隣接する大阪府下の税務署に通達発遺を行い、通達要件を満たす同業者の抽出を求めた。)

<5> 年間を通じて事業を継続して営んでいること

<6> 仕入金額が三五〇〇万円以上、二億六〇〇〇万円未満であること(仕入金額については、いわゆる倍半基準を採用しているところ、原告の事業内容と同様の同業者が少なかったことから、本件係争各年分を通じた倍半基準を採用し、その範囲内でできる限り多数の同業者を抽出することとした。そして、被告が把握し得た原告の本件係争各年分の仕入金額(売上原価)は、別表「原告の総所得金額」「<2>売上原価の額」欄記載のとおり、平成三年分が七三七五万六二七四円、平成四年分が一億〇三六五万九四四一円、平成五年分が一億二九五四万二三九〇円であることから、上限を平成五年分の売上原価の約二倍とし、下限を平成三年分の売上原価の約二分の一としたものである。)

<7> 作成対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が継続中でないこと

イ 右通達によって抽出された同業者の総数は七件であり、本件係争各年分における各収入金額、売上原価、売上原価率、算出所得金額及び算出所得率は、別表同業者一覧表(平成三年分から平成五年分まで)記載のとおりである。なお、右算出所得率は、売上原価、一般経費及び専従者給与を収入金額から差し引いた算出所得金額から求めたものである。

ウ 被告は、被告が把握し得た原告の売上原価(別表原告の総所得金額「<2>売上原価の額」欄)を右イの同業者の平均売上原価率で除して得た金額(売上金額)に同業者の平均算出所得率を乗じて得た金額(算出所得金額)から建物減価償却費、地代家賃及び事業専従者控除額を控除して得た金額(総所得金額)を原告の事業所得金額として算出した。

(2) 右(1)によれば、右の通達基準によって抽出された同業者は、原告と業種、業態、事業所の所在地及び事業規模等の点において、類似性を有し、しかも、その申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であるから、金額の正確性も担保されているものということができる上、各同業者の個別性を平均化するに足りる件数であり、その抽出過程に恣意の介入する余地はないことから、これによる推計は合理的なものと認められる。

(3) これに対し、原告は、同じタイヤ・ホイールの販売業を営む者であっても、中古車販売業者に対しての販売を行う業者と、エンドユーザーへの小売を主に行う業者では、類型的に見ても売上原価率や所得率は異なるのが通常であるから、同業者の選定に当たっては前者に限定すべきであるとか、タイヤ・ホイールの整備修理業務は、仕入れがほとんど要らない業務であり、販売業務に比して売上原価率は低くくなることが明らかであるから、整備修理業務の売上については除外して比較するべきである旨主張する。

しかし、推計の基礎事実については、限られた時間内に客観的に把握し得るものであることを要するから、原告主張のような事情が存在するとしても、直ちに右推計の合理性が否定されるものではないというべきである。さらに、推計課税において、原告の業態と完全に一致する業者を選択することはおよそ不可能であり、その性質上、同業者との間に通常生じる営業内容等の差異は、平均値を算出する過程で捨象されると解されるところ、原告が主張する販売先や整備業務の割合の相違は、前記推計を不合理ならしめるほど顕著な事情であるとは認め難い。

また、同業者の選定に当たって大阪国税局長が付した事業場所や事業規模の条件が不合理であるとは解されないし、他に右推計の合理性を否定すべき事情は見当たらないというべきである。

3  そうすると、別表課税の経緯の異議決定欄に記載された原告の本件係争各年分の事業所得の金額(総所得金額)は、いずれも別表原告の総所得金額の各<10>総所得金額欄記載の範囲内にあるから、本件更正及び本件決定はいずれも適法である。

五  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 徳地淳 裁判官大野正男は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 三浦潤)

別表

課税の経緯

<省略>

別表2

同業者一覧表

(平成3年分)

<省略>

別表3

同業者一覧表

(平成4年分)

<省略>

別表4

同業者一覧表

(平成5年分)

<省略>

別表5

原告の売上原価の明細

<省略>

別表6

源価償却費の計算

平成3年分

<省略>

平成4年分

<省略>

平成5年分

<省略>

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